飛騨の細道 143-「 悠久の時」


■悠久の時

飛騨では桃の節句や端午の節句は1ヶ月遅れとなるため、
おひな様は3月3日から4月3日まで飾られるのだ。

高山ではこの1ヶ月の間、観光施設や町家、
さらには骨董屋さんなどにひな壇が飾られ、
赤もうせん一色で、町が赤く染まるほど艶やかになる。

このひな人形のメインになるのが「内裏びな」。
その姿は天皇・皇后の姿をかたどったものとされている。

古式豊かな源氏物語を彷彿させるひな人形だが、
天皇・皇后の姿を『明治天皇』にならった珍しい壇飾りが、
日下部家にある。

三人官女や五人囃子を見慣れているせいか、
木箱から出される兵隊さんのひとつ、ひとつが珍しく、
おもわず細部に目を奪われるが、
飾り付けの準備にいそしむ人は、
兵隊さんに国旗をもたせ、馬に乗せ、帽子をかぶらせと
なにかといそがしい。

「この帽子は横だったかな?」
「横にしたら外国やに。前やさ、前!」
「あれ、こわいさ、去年のことなのに、もう忘れてしまったに」

年老いたスタッフは曖昧な記憶を頼りにしながら、
明治から流れる悠久の時を楽しんでいるのだ。