飛騨の細道 68-「こんな人がいるから町は楽しい」


こんな人がいるから町は楽しい

高山には毎年400万人ほどの観光客が訪れるが、
「若者が興味をもった高山の景観は?」と聞かれたら
上位にライキングされるのが住さんの唐草紋様の自転車とオートバイ。

携帯電話やリサイクルカメラを持った修学旅行生や若者が、
歓声をあげながらシャッターを押す様子は、
さながら野外に置かれたポップアートを見ているようだ。

作者の住さんが『唐草』に興味を持ったのは、今から20年前。
雑貨屋さんで唐草模様の財布やポシェットに出会ったのがきっかけだ。
次第に住さんの思いは『買い求めるから自ら作る』へと昇華し、
純度を増していった。

10年前、店の近くの不燃物ボックスにピンクの自転車が捨ててあった。
最初はベネトンカラーに塗り替えようと思ったが、
「アンタの好きな唐草にしたら?」という奥さんのアドバイスで
唐草模様で化粧された自転車が誕生してしまった。

連続する唐模様を細かく描き込むのはなかなか大変で、
なんどか匙を投げかけたが、我慢したかいがあって
サドルまでも唐草模様にするほど、
完成度の高いペインティングができあがった。

さらに自転車からオートバイへと唐草は伝染し、
ボディはグリーン地で唐草は白。泥よけ部分は逆に白地にし、
唐草はグリーンといったぐあいにペインティングもバージョンアップ。

そのおかげで店の軒先きに並ぶ二台は宣伝に一役買い、
住さんの出前(日本そば店を経営)先で話題が尽きぬことはない。

「人と同じことはしたくない性格だから、
結果的に目立つことをやってしまうんですよ。ほら、この白の長靴。
何もしなきゃただの料理屋さんがはく長靴なんだけど、
マジックで紐を描いたり、ナイキのマークを入れたりすれば、
なんか楽しいじゃないですか」。

住さんのこだわりは蔦のように増殖し、
やがて生活空間を唐草が覆いつくす日も近いかも知れない。


写真/のれんの前で