飛騨の細道 59-「飛騨人の表がまえ」


■飛騨人の表がまえ
 
十年ひと昔というが、
よん昔以上も前に時代をさかのぼれば、
雑誌でもてはやされている町家も
学者や建築家、そして一部の観光客にしか、
その良さを知られていなかった。

それが観光ブームによりいちやく脚光をあびるようになると、
「時代にあわない古臭い家」は、
洗練された住まいとしてもてはやされるようになった。

限られた土地を最大限に活用するためのノウハウや、
意匠、そして美意識など、生活の知恵がいろいろとつまった町家だが、
便利さに慣れた世代が住むとなるとかなり不便を虐げられる。

ふきぬけのある土間は冬になれば、凍りつくほど寒く、
天井の低い二階は暗くて狭い。
上がり口をいっそうのこと現代風に変え、
出格子や障子はガラスの窓やアルミの二重引き戸に。
そして板の間はじゅたんに。

なんならいっそう建て替えて、
まえでをおしゃれな和雑貨の店や喫茶店に、いやお食事処に。

生身の、ひとさまの生きざまを包み込んで呼吸していた町家は
こうしてひとつ減り二つ減りし、
観光雑誌にもてはやされるピカピカした町並みになった。
(それでも建築基準法や消防法の関係で、確実に衰退に向かっている町家保存の現状を考えれば、良しとしなければならない)

現在、高山市では古い町並みを保存する人たちと協議しあって、
保存区域の景観にルールを設けている。
それにくわえ、市井の人たちの心づかいが町の景観に一役買い、
飛騨人の表がまえを作っている。

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写真/自動販売機(上段)NTTのショップの表札看板(中段) 
通りに面した台所の瞬間湯沸かし器の裏蓋(中段下) クリーニングの取次ぎ店看板(下段)