飛騨の細道 37-「和魂洋才」


■和魂洋才
 
ほの暗い灯火のゆらめきのなか、
笛の音が静まり返った空間を切り裂く。

笛の奏者に目をこらしていると、
背景の闇のなかからこつぜんと夜叉が浮かび上がってきた。

ガラス一枚をへて、外と内が一体化した、
舞踊家『谷口裕和 舞の会』の第2幕は
おどろくような演出のなかではじまった。

この舞の会は凝った演出のほかに会場選びにある。
じつは会場となったのはある木工会社のショールームなのだが、
三面すべての壁が全面ガラスという異空間。
いつもはデンマークのデザイン家具を展示しているのだが、
ふだんとは違った奥深い静寂な空間が生まれた。

ところで舞踊家『谷口裕和』氏は
創業200年以上という老舗料亭の料理長を父に持ち、
幼い頃から三味線や地唄を聞いて育った、
根っからの舞踊家である。
彼は中学を卒業後に上京。西川流をへて、
歌舞伎振付け師の梅津流へ入門。
いっときは板東玉三郎の振付けも手伝ったと聞く。
現在は高山と東京に会を持ち、
両方を行き交いしながら活動を続けている。

『谷口裕和』氏はこうした創作舞踊のほかに、
飛騨の花柳会などで受け継がれてきた、
昔ながらの飛騨の伝統的な踊りを継承し、
後世に残そうとしている。

高山の伝統文化の進退をふと考えるとき、
32才の若者の立ち居振舞いがじつに輝いてみえた。


写真/ショールームが一変して舞台に