飛騨の細道 15 - 「秋葉様。」


■秋葉様。

高山の町を歩くと橋のたもとや町並みの家と家の間、
そして二階の軒下などに『社(やしろ)』を見ることができる。
この社は遠州(静岡県)の火防の神・秋葉山大権現を祀ったもので
高山の人は『秋葉様』と親しく呼んでいる。

高山も過去に幾度か大火に見舞われたことがあり、
四方から迫り来る炎の中で密集した町家の多くが消失した。
しかし、跡形もなくなった現場に『秋葉様』だけが不思議と残っていたという話があり、
火事から家屋や人を守る神様として遥か昔から市民に祀られているのだ。

江名子川にかかる寺内橋のたもとには、文化七年(1811年)に建立された秋葉様があり、
神楽臺組(八幡町・桜町)の組の人たちが護っているが、
市内に60ほどある秋葉様の多くは神楽臺組のようにそれぞれの町が護り、
町内ごとに献撰の準備をし、例祭を執り行う。
例祭は正月、5月、9月、さらに町内で火災が発生すれば八幡宮の神官が祝詞をあげ、
お祓いし、組の人たちは自分たちの町や家から出火しないことを祈願する。
江戸期、このような火伏信仰は全国的に爆発的に広がったが、
今でもこのような例祭を執り行うところは全国で高山だけという。

日が落ち町が淡墨色の闇に包まれると、寺内橋の周りには秋葉様の常夜灯がともり、
灯りは町のすみよさを育む大切な道標になる。


写真/船鉾臺秋葉様