飛騨の細道 167-「雪解けの味」


■雪解けの味

料理を見れば、上の乾燥したものの正体がわかるが、
山之村の寒干し大根である。

1月、大寒に入ると山之村の女たちは、
土の中や地下貯蔵庫から青首ダイコンをとりだす。
皮を向いたダイコンは巾2cmほどの輪切りにされ、
次々と煮えたぎる大窯のなかにほうりこまれるのだ。

煮あがったダイコンはそろばん玉のように串ざしにされ、
寒風が吹きさらす軒下に吊り下げられる。
さらされるのはおよそ40日ほどである。

夜になると凍み、陽が出ると凍みが溶ける。
さらにくわえて寒風が水分を飛ばす。
そんな日々を重ね、徐々に痩せながら旨味を奥の奥まで凝縮してゆく。
写真のような飴色になるのは好条件が揃った証なのだが、
寒暖の差が少ない暖冬だと、途中でカビが発生してしまって商品にならない。
すべて天気あんばいなのだ。

水分が飛んだ寒干し大根を持つと麩のような軽さ。
これがダイコン?と驚くが、水にもどし醤油で味付けすると、
驚いたことに元の重さに戻ってしまうから不思議だ。

味はダイコンの煮しめなどと較べるともちっとした食感。
さらにいつまでもしぐのい(筋が残り噛み切れないの飛騨弁)感じで、
凝縮されたダイコンの甘さが十二分に味わえる。

炊きたてのご飯に醤油で煮付けた寒干し大根さえあれば、
私なんかじゅうぶんのご馳走なのだが、
飛騨の若い奥さんは水で戻したあとフライパンで炒め、
肉や野菜とあわせてピリ辛風というのが流行らしい。

山之村の寒干し大根は飛騨市神岡町山之村のJA森茂支所で販売しているのだが、
予約注文でなかなか手に入らないと聞く。
そうなるとますます食べたくなるのが困る。