飛騨の細道184-「料亭お抱えの植木職人 」


■料亭お抱えの植木職人

庭師の堀部実(岐阜県卓越技能者認定)は
120年続く庭師の家に育ち、現在四代目の親方である。
その横には五代目の息子さんがのれんを引き継いでいる。

飛騨高山では旦那衆と呼ばれる裕福だった町人は身分制度の関係で、
豪奢な家を建てる訳にはいかず、表向きは質素な店舗兼用の家にし、
裏へ回ると驚くような立派な座敷庭を持っていた。

また江名子川の東に位置する東山には寺院が多く建立されており、
いずれの寺も負けず劣らず立派な庭園を持っており、
立派な庭師が育つ背景が飛騨にはあったのだ。
しかし、寒冷地の飛騨では常緑樹だけで作庭することは難しく、
黒松や赤松などの針葉樹がどうしても多くなる。

「松ってのは百年たってようやくその姿が整ってくるんやけど、
我々職人が形を作るんじゃのうて、松が自分で姿を作るんやさ。
言ってみればわしらは単にその手助けをしているだけなんや」

「ちなみに一人前の庭師になるにはどれくらいかかりますかね?」

「三年、そして三年、さらに三年。まあ、十年はかかる。
他の職人さんもそうやけど、『庭師は見て憶える』これに尽きるな」と
いいながら恒例の黒松の雪吊りにいそしむ親方は、
松の枝を眺めながらてきぱきと指示をしていた。


写真/右端が親方の堀部実さん