飛騨の細道 46-「地獄を絵に。仏師が語る。」


■地獄を絵に。仏師が語る。
 
高山の街なかから車で20分。
清見町に工房を持つ高田慈圓さんを訪れた。

慈圓さんの父、慈眼さんは仏師で古くから仏さんを彫っている。
そんな父の影響もあり、高野山で修行を終えた慈圓さんは、
父と同じ仏師の道を選んだ。

慈圓さんがお寺から地獄絵図を頼まれたのは昨年の6月。
それから14ヶ月がたち、ようやく完成した。
さっそく作者の慈圓さんに地獄ついてたずねてみた。

極楽の世界とくらべ地獄は怖いところなのですが、
じゃどんなに怖いのかというのを具体的に絵にしたのが地獄絵です。
この絵を描くにあたって
「悪いことをするとこうなるぞ!」というようにとらえるか、
一歩進んで「いいことをしましょうと奨励している」と、とらえるかによって、
描きかたはずいぶんと変わってきます。

わたしは生々しくておどろおどろした中にもユーモアがあり、
動きのある地獄絵をめざしました。
考えてみれば現代はまさに地獄絵そのものので、
嘘がまかりとおり、じぶんさえ儲かればいい、
助かればいいという人間がとても多いですよ。
もちろん、わたしも自分自身を反省しながら筆を握りました。

この地獄絵、鬼を人間にすりかえてみると、
自然界のなかの生きとし生けるものをいじめている人間のごう慢さや、
エゴイズムが浮かび上がってきて、
現代では解釈の幅がずいぶんと広がってきます。
(続)


写真/高さ1.5m、幅6mという大きな地獄絵図に向かう