飛騨の細道 191-「涅槃雪」


■涅槃雪

立春をすぎて降る雪にはいろいろな名前がある。
やわらかくてすぐにとけてしまう「淡雪」。
おなじあわでも「泡雪」や「沫雪」になると
春にかぎらず、すぐに消えるはかない雪を指す。

ほかには牡丹雪や綿雪。斑雪に粗目雪や名残の雪。
さらには涅槃雪という、お釈迦さまが入滅された
変わった呼び名の雪もある。

この時期、飛騨の野山は雪泥や雪垢によって
雪の白さが薄れていくのだが、
今年は3月になってもいまだ白い。

この日、千光寺(高山市丹生川町下保)に続く参道は
雪をともなった風が激しく吹き荒れ、
国指定の五本杉の太い幹が、
雪風巻(ゆきしまき)で真っ白に煙った。

樹の高さは約50m。
太さは幹囲りで1本が約12m。
樹齢はおよそ1,200年〜1,500年という
途方もない時の中に生き続けている杉である。

雪をかきわけ近づいてみると
涅槃雪をまとった美しい五本杉には、
ふだんとはちがった、
ただものならぬ気配が漂っていた。

冬期閉館の円空仏寺宝館は4月1日より開館


写真/奥深い山の中に点在する祠や不動明王