飛騨の細道 45-「絵馬市のならわし」


■絵馬市のならわし
 
高山の街なかに間口わずか二間ほどの小さな神社がある。
神社名を山桜神社といい、飛騨の風土に似つかわしく、
やさしく可憐な名前である。
名前の由来は高山城主の金森頼直公が飼っていた愛馬からとられた。

山桜は乗鞍山麓で育った野生馬ながら、体格や資質がずばぬけて優れ、
江戸詰めの折り、君主を乗せ江戸の大火から救ったと言われている。

現在の地に厩舎があり、晩年山桜はここで過ごした。
山桜亡きあと、その供養として神社をつくって馬頭明王を祀り、
現在では市民から“馬頭さま”とよばれ親しまれている。

この神社では毎年8月1日から15日にかけて
“馬頭絵馬市”を開催しているが、
馬の絵を和紙に描いた絵馬は、もとはといえば厩(うまや)などに貼って、
牛馬の健康や働きぶりを祈願したものだった。

やがて祈願は厩から商家へと移り、
商売繁盛や家内安全などの縁起ものとなり、
買い求めた客は家に帰ると、さっそく玄関の壁に絵馬を貼った。
(外から家のなかへと幸福が訪れるようにと、馬の頭は家向きに貼られる)

高山では山桜神社のほかに、池本屋呉服店や松倉絵馬市があるが、
160年前にはじまったとされる風習は、
今でも市井のなかにしっかりと生き続いている。


写真上/神社を守る商店街の人が絵馬の描き手となる。