飛騨の細道 35 - 「人形がいる暮らし」


■人形がいる暮らし

ゴールデンウィークが終わると町はひさびさの雨に濡れた。
この日、私は傘を片手に、末広町のとある旧家へと足を運んだ。

高山は川を挟み、東と西に二分されているが、
古い町並みをはじめとした観光施設は東側に集中している。
末広町は町の西側にあり、となりの朝日町とあわせ、
一帯は居酒屋や小料理屋、クラブやバーなどが集まる歓楽街でもある。

話は変わるが飛騨では桃の節句や端午の節句は月遅れで祝うが、
ここ十数年前から観光施設や旅館、民芸品店などで
雛人形や武者人形などを飾るようになった。
これは飛騨高山観光客推進協議会が高山美術商組合などに
呼び掛けて実施しているもので、
端午の節句の飾りは高山市内58ケ所で展示されている。

民芸館や郷土館に展示されている人形ともなれば、
由緒あるものばかりで、さぞかし古美術的価値があるだろう。
しかし、ネオン街の一角にある旧家が所蔵していると聞けば、
なんとなく想像力がかきたてられ、私には数段の魅力が感じられた。

はやる気持ちを抑え、私は旧家の門をくぐった。
家主(なんと高山市市長の土野さんでした)に伺うと、
屋敷は明治時代に建てられた祖父の別荘だという。
玄関まわりといい中庭といい、家主のしつらえもあわせ、
じつに趣きのあるたたずまいだった。

客間には剣を持ち、大きな眼で睨みをきかせる鍾馗(しょうき)の旗や、
豊臣秀吉を頭とした戦国武将の陣飾りがあった。

主人とともに何百年もともに暮らしている人形は、
美しくてきれいで、ある種の豊かさとほっとするような空気を
漂わせるものである。

端午の節句飾り/6月5日まで


写真/土野家の端午の飾り