飛騨の細道 93-「不思議な夏」


■不思議な夏

のみ終えたあとでも香しさが、
鼻孔の奥に残るような、ワイン的な風景にであった。

スモークのかかった車窓から見るその空は、
一見して不思議な様子をみせていた。
入道雲を下にしてその上を筆でシュッと一筆書きした白い線が、
風の勢いで吹き飛ばされるようで、
夏と秋が天でせめぎあっているような、
不思議な光景だった。

さらに不思議なのはこの日を境にし、
青い空を突き抜ける入道雲はなぜか出なくなったことだ。
(秋が勝ったのかもしれない)

ところで雲観察といえば夏休みの宿題のなかでも定番中の定番。
お手軽で、手間もかからず、すべて自然しだい。
たまに家族の助けを借りても、文句が出ることも少ない。
このような他力本願的な観察なのだが、
今年はさらに楽だったにちがいない。

くる日もくる日も入道雲。天気図には変化なし。
多少、最高気温は変動はするが、
30度を切るような日はなかった。
こうなれば同じ日に一週間分まめて、
なんていうズルをしたってバレはしないはずだ。

灼熱の夏は誰が考えても異常気象なのだが、
寝ても覚めても、暑い、暑い、暑いとなると、
それが正常に思えてくるから不思議だ。