飛騨の細道 23 - 「ありゃ〜こわいさ〜。」


■ありゃ〜こわいさ〜。

雪国に住んでいると、たまに雲の切れ間から顔をだすお天道様が、
何よりものごちそうである。
たんぼに積もった雪は広い雪原になって
雪道を歩く子どもたちの防寒具が花のように陽の光のなかで浮きだつ。

見てると子どもながらに足どりは確かで、
すってんころりと滑ってこけるような子はいない。
ところが観光客や商用で冬の高山を訪れる人のなかには雪道でこけ、
打ちどころが悪くて病院へ搬送される人もいるのだ。

雪道ならではの足はこびをしていないというのがこける理由だが、
じゃ、どういう足はこびがいいのか?
そこで私の経験をもとにそれを伝授したい。

まず、こけるかも知れないと意識すること。
意識したとたん、足裏から膝にかけ神経が集中するのだ。
(慣れてくると無意識下でもできる)
足裏全体でベタと歩くのではなく、指の先近くに体重をかけながら歩く。
そしてこれがポイントなのだが、
雪道の状態にあわせ親指の付け根から小指へ体重を移動させ、
バランスをとるのだ。
膝を軽く曲げ、腰を少し落とす。目線は足下ではなく、歩く先へ。これも大事である。
(この姿勢はスキーの基本姿勢と同じだ)

これとは逆に最悪なケースが革靴を穿き、コートを羽織った出張ビジネスマンだ。
右手にカバンをさげ、左手はコートのポケットのなかに。
その体勢で凍った道をヨチヨチと歩くわけだから、
後ろにひっくりかえったらどうなるか。
いわずとがな、ピポ〜ピポ〜のご厄介となる。

キャキャと笑いながらこけている観光客は見てても微笑ましいが、
ビジネスマンがひっくりかえる姿は、
見ていて「ありゃ〜こわいさ〜※」なのだ。

※ありゃ〜こわいさ〜とは飛騨弁で「あれ、まあ気の毒に」と、
半分相手をさげすみながら使う。