飛騨の細道 22 - 「山村のおっかさま。」


■山村のおっかさま。
 
連日、雪、雪の毎日だが、
山之村といえば飛騨では豪雪地として有名な山村だ。
大寒がはじまると、この村ではおっかさまたちが寒干し大根づくりに精をだす。
いちどこの光景を目にしたくて3年前、山之村を訪れたことがあるが、
その日は村びとたちも経験したことのない恐ろしい悪天候だった。

私の車は一瞬にしてホワイトアウトに遭遇し、視界はゼロ。
さらに竜巻きのように吹き荒れる風で、
停止した車は前後左右上下と大きく揺れだした。
私はただただ、突風が通り過ぎるのをじっと待っていた。

五分ほどたち視界が開けると、
さきほどまでの悪天候が嘘のように静まりかえ、
車窓から一面真っ白な光景が目に飛び込んできた。
かろうじて隆起する雪のシルエットから、
黒くすすけた民家の軒下が見え、
その下にそろばん玉のように連なる寒干し大根が、
白い宝石のように輝いていた。

すでに数日前に干したという大根は凍みの洗礼を受け、
水分を含んだ大根は夕方から朝にかけカチカチに凍る。
そして昼間、太陽に照らされ、再び凍みが溶け出す。
さらにこの土地特有の風に吹かれながら凍る、溶けるを一ヶ月近く繰返すと、
直径8センチほどあった大根はしだいに縮み、最後には3センチほどになる。
それにあわせるように真っ白い大根は「寒干し大根」特有の薄いアメ色を纏うのだ。

雪が完全に解けるのが五月連休頃だという山之村では、
そさい類を口にできるのは一年のうち半年しかない。
そこで保存食にすれば年中食べられるという知恵に結びついたのが寒干し大根なのだ。
水にもどし、醤油とみりんで味付けをすると、
なんともいえない歯ごたえと、大地の滋養が口のなかいっぱいに広がってくる。

自然食品として脚光をあびるようになってからは
予約で完売となり、一般には手に入りずらくなったが、
冬の収入が皆無の村びとにとって、
おっかさまたちの副収入は何よりもの糧である。