飛騨の細道 187-「電柱でござる」


■電柱でござる

高山の町を歩いて好きなのは、
間口の狭い家先の律儀でこじんまりとした風情である。

見てみれば、家主はチリ一つ落とさぬよう、
玄関まえの道路の掃除にいそしみ、
春ともなればどの家も家先に鉢を置き、季節を楽しんでいる。

これは高山だけに限らず、京都や金沢、鎌倉や萩なども同様だと思うが、
いずこもたたずまいには細やかな神経を使っているようだ。

ところが、ここまでの美意識を持っているにもかかわらず
どの町も電柱は乱立し、電線は空を縦横無尽に走っている。
これは決して美しい景観とは言えない。

しかし電柱の撤去はどこまでやるのかという線引きが難しく、
工事が広範囲に及べばとてつもないコストがかかる。
その一方でライフラインの整備を先延ばしをすれば、
今より膨大なコストがかかってしまうという、
苦渋の選択をどの町も余儀なくされているのだ。

幸い高山の道路は碁盤の目のように走っており、
景観保全エリアには南北に一之町筋、二之町筋、三之町筋の目抜き通りがある。
さらに東西にも辻が走ることで、エリアの電柱を計画的に撤去できる。

間もなく工事が完成する、大新町2丁目から3丁目の越中街道は、
観光だけでなく高山の歴史をひもとく要所として重要な通りである。
加えて家の前の側溝も工事。かなりの年数をかけ、
当時の面影を再現した。

えび坂下の上二之町から大新町3丁目までの1キロちょっと。
ここでは電柱や電線のないスッキリした空が見える。