飛騨の細道173-「料亭と苔」


料亭と苔

ここ数年来、異常気象が続いているが今年もやはり雨が降らない。
雨が降らなければ、飲料水や田畑の作物、
清流を泳ぐ鮎や山のタケノコなど、
数えきれないものに被害がおよぶ。

多分に水の恩恵をうけている日本では、
水が少なくなると、会話の中で何かと水のことが話題にのぼる。
タケノコが獲れないから値段がえらく高いとか、
今年も川が死んでしまい鮎は駄目や、とかいうぐあいに。

被害といえばすこし変わったところで「苔」。
300年続く料亭「角正」では、
お店の方が頻繁に庭を歩き、あえいでいる苔にお湿りをあげている。

樹々の一つひとつの緑。そして足元の苔の緑と、
「角正」の庭の中にはさまざまな緑の濃淡が漂っていて、
さながらジャングルにいるようだ。

藍色の着物と若草色の帯をした若い女性が苔の合間を歩く。
その姿を遠くから眺めていると、重なりあった枝葉の隙間から
真っ白な足袋が見え隠れし、その様は梅雨の時期、
静謐な感じでとても美しい。


写真/この緑は300年も続いている