飛騨の細道 118-「猫と法隆寺」


■猫と法隆寺

日光の東照宮といえば眠り猫が有名だが、
天下の法隆寺といえば野良猫である。

午後5時近くになると館内には
閉館を知らせるアナウンスが流れるが、
法隆寺にすみかを構える猫は「パブロフの犬」のように、
アナウンスの声に的確に反応する。

かれらは従業員がいなくなるタイミングを絶妙にはかりながら、
ぞろぞろと出てくるのだ。

黒やブチ、そしてトラなどの野良猫が植え込みのなかから。
縁の下の奥から。
その様子はまるで手品のハトのようなのだ。

あたりが漆黒の闇に包まれる夜には、
金堂の前の広場では猫の響宴が始まり、
五重の塔のまえではメスをめぐってオス猫同士が骨肉の争いを演じる。
なかには回廊の柱にマーキングをする猫だっているだろう。

大講堂や西円堂の縁の下なんかにもぐってみれば、
飛鳥時代からの糞が、三里塚の化石のように積み重なっているのではないか。

それを思うと、法隆寺は猫にとって
浄土なる世界なのかもしれない。