飛騨の細道 163-「信仰とくらし」


■信仰とくらし

巾1m、高さ60cmほどの楕円型の自然石。
その上にお社をのせた「秋葉さま」。
この神様は火防の神様で、幾多の大火事が高山を襲っても、
不思議と秋葉さまだけが焼け残っていたというところから、
信仰がひろまった。

現在、秋葉さまは高山市内に66カ所。
例祭は年に2〜3回で正月、5月、9月に執り行われる。
祭礼はお社の前に御神酒、お米、塩、お水、魚、果物、
野菜など種々(くさぐさ)のものを飾り、
宮司が祝詞を詠み上げ、
そのあと地元の人が榊を奉納し、参拝する。

参列者は「秋葉さま」を護る地域の人。
町内会長や班長、社教や民生委員の方々だ。

この日、高山の気温は昼を過ぎても上がらずマイナス2度。
さらに江名子川の川風が加わって、体感温度はそれ以上に低い。

見ると白の装束をまとった祭員がしゃく板をもち、
橋を渡り、走る、走る。
社の前には参列者のみならず、神主がすでに到着。
ようは遅刻したのである。

足元をみると、神主以下役員全員「ゴム長靴」。
祭員だけが白足袋にぞうりという正装。
冷えは足元からというが、見るからに寒そうで元気がない。

祭員、拝礼のあと御神酒のふたをあけ、
紙垂(しで)を手にし、お供え物をお祓いする。
その後、神主、参列者が頭を垂れ、順にお祓い。
ほか、手順に沿って祭員だけが前後左右、
半回転、後ろ向きとせわしく動き回るのだが、
いっこうに体が暖まってこない様子で、
祭礼が終わるまで元気がなかった。

この月、高山ではいたるところで、
秋葉さまの祭礼が執り行われるが、
「祭礼のため、5日は銭湯を休みます!」というポスターがあり、
暮らしに寄り添う信仰心が、こんなところからも感じられる。


写真/寒さこらえる祭員。