飛騨の細道 160-「火の神様」


■火の神様

高山の町を歩くと橋のたもとや、
家と家のあいだや、二階の軒下などに
『小さな社』を見ることができる。
この社、遠州(静岡県)の火防の神・秋葉山大権現を祀ったもので、
高山の人は古くから『秋葉様』と親しく呼んでいる。

高山は江戸から明治にかけ、何度か大火に見舞われたことがあり、
四方から迫り来る炎の中で密集した町家の多くが消失した。
しかし、跡形もなくなった現場に『秋葉様』だけが
不思議と燃えずに残っていたという話があり、
火事から家屋や人を守る神様として遥か昔から祀られているのだ。
(料理屋さんは火を扱うため、秋葉さまの護符を厨房に祀っている)

宮川朝市の川向いにある秋葉さまは、
最近、商店街の二階の軒下にあったものを移築し、
児童公園の一角にあらたな社を作り、そこへ移した。
(ここの秋葉さまは右大臣、左大臣が祀られており、
他の社とは一線を画している)

社はその町内(実際は組と称する単位で、町内より人数が少ない)で
維持管理をするのだが、ここのように新築となれば、
かかった費用は組み全員で負担することになる。
秋葉さま以外にも、地元の神社の氏子割当というものもあり、
神様を護るにもお金がずいぶんとかかる。

北陸の港町にもに似たような社が祀ってあったが、
こちらは火ではなく、海を鎮める神様なのか知れない。


写真/暗闇のなか、社が灯りで浮かび上がる