飛騨の細道 122「まどろみ」


■まどろみ

木々のまわりだけが、
ぽっこり穴になって土がのぞいている。
そのあいだをぬける谷川は、雪解け水で瀬音が大きく、
岩にくだけた水流は日をうけ、真っ白に輝いていた。
山の息吹を感じさせる特有の景色である。

春の奥飛騨、福地温泉は
つばめたちが抜けるような青空を、
縦横無尽に高く飛びまわっていた。

一軒の古民家風の宿に足を踏み入れる。
花器の花、土壁のしつらえ、和風小物。
湯船におちる雫。いろり。露天風呂へつながる渡り廊下。

客のいない午後のひとときは、
館内にあるものすべてがおし黙り、
静かに呼吸しているように見える。