飛騨の細道 105-「不思議なできごと」


■不思議なできごと

北アルプスを水源とする高原川が、山峡を切り込むように流れる神岡町。
昭和30年代には町民が27,000人にふくれあがるほど最盛を迎えた神岡町には、
三井金属鉱業が100年以上にわたり運営してきた鉱山があった。

鉱山の歴史は奈良時代までさかのぼるほど古い。
江戸時代には金や銀が採掘され、
飛騨は幕府直轄になるほど豊かやな埋蔵量を誇った。

ところが鉱石は枯渇し、
その後三井組が明治時代に経営権を取得すると、
金や銀にかわり、亜鉛や鉛が採掘されるようになった。
その採掘量は東洋一だったという。
しかし、公害や需要の衰退などを理由に10年前に採掘は中止されてしまった。

採掘杭があった栃洞という地区は神岡から車で30分ほどにあり、
二十五山の急傾斜には当時の繁栄を物語る鉱員住宅や、
浴場、選鉱の機械施設が廃墟となり、残っている。

廃墟マニアや鉱山マニアにとって栃洞は垂涎の的で、
選鉱施設がおどろくほど崩壊しても、
いまだこの地をメッカのように目指すマニアは多い。

筆者は幼少期をこの地で過ごし、
鉱山生活の思い出がいまだ色濃く残る栃洞には格段の思いがある。

採掘杭はいくつかは当時のまま残っており、
好奇心旺盛な同伴者のあとを追って中へ入ってみた。
夏はおどろくほど涼しい杭内は、冬になると寒く、
天井からは何十本というつららが垂れ下がっていた。
なかには3mほどに成長したものもあり、
厳冬期になれば地面にまで届くに違いない。

朽ちた屋根が雪の重みで崩れ、
鉄はさらに錆色を増す。
そしてつららは日々、数ミリという長さで成長し続けるが、
いずれも人知れぬ、山のなかの出来事なのだ。
そのことがなぜか、私には不思議に思えてしかたがない。