飛騨の細道 91-「役の重さに比例してか」


■役の重さに比例してか

照りつける暑い太陽。
鮮やかな緑色の田んぼがどこまでも続く。
そしてそのさきには真っ白な入道雲がにょっきり。

こんな風景のなかを50ccのオートバイでちんたら走っていると、
思わず「日本っていいなぁ」。

この先にあるのが、わずか60世帯にも満たない丹生川町北方区。
以前は「そんなことは酒を呑みながら話さまいかな」と
ことあるごとに村民は公民館に集まり、
酒を呑みながら多くを語ってきた。

しかし、最近では村の行事以外に集まることは少なくなってしまい、
煩わしいことは敬遠されがちだ。
そうしたなか、50年以上も前から変わらないものがここにはある。

それが軒先にかけられた大き役割札。
会長を筆頭に副会長、庶務、会計など、
いろんな役札があるが、飛騨では表札ぐらいの大きさだ。

ところがこの区のは幅30cm、高さ150cmという、
相撲部屋の表札にも負けじと劣らない。
(丹生川ではこのサイズが標準らしい)
そばで見ると使い込んだ木の風合いが、民家の面構えにじつよく似合っていた。

ここらあたりは家のまえに畠や田んぼや納屋などがあって、
家屋は道路からずいぶんと離れている。
よく見えるようにとこれだけの大きさが必要になったのかな。
(どこのだれべいなんてことはみんな知っているから、
家主の表札は普通サイズで十分というわけだ)

「柱にかけるとなると柱を傷つけるでな。
うちでは一年中、壁に立てかけておいたんや」と話してくれたは隣のおばさん。
この人は今年の3月で副会長の役を終え、
お役ごめんのおもむきだった。

なにかにつけ、昔ごとが申しあわせたように消えてゆく時代。
当たり前のように「これがしきたりやでな」と話すおばさんだが、
その横顔を真夏の太陽が照りつけていた。


写真/ 民宿の看板のようにも見える