飛騨の細道 70-「汚れなき風景」


■汚れなき風景

桜の花びらが舞う春、輝く新緑の夏、
色艶やかな紅葉の秋、そして静寂の冬。
日本の神社やお寺は、柔らかな四季に寄りそうように美しい佇まいを見せる。
なかでも大隆寺の弁天堂は舞台の書割りのような城山を背にし、
水上に舞い降りるしろさぎのような赴きを放つお堂だ。

弁天堂は高山の町や幹線道路からほどよい感じで離れており、
静かな里山と一緒にその佇まいが楽しめる。
行くと段々畑のなかほどに25mプール、2つ分の池がみえ、
水上に姿を映すお堂が、
風景のなかにほどよい緊張感を漂わせている。

車から降りてその場で眺めてみるのもいいが、
池のまわりを歩いてみると、
角度によってお堂は異なった美しさを見せてくれる。
見るとお堂は享和元年5月に建てられ、
高山三町に住む大工、善兵衛と小左衛門の作だと記されていた。
造営は大隆寺三世の竺翁恵林和尚である。

弁才天は、元来インドの河神でもあり、
水辺や島、池など水に深い関係のある場所に
祀られることが多いというが、
造りと背景が池と一体化している、
大隆寺の弁天堂はその美しさにおいて
なかなかである。

わたしは文字どおり、
しろさぎのような弁天堂を見たくて、
古寺巡礼で室生寺を撮った土門拳のように雪の日を待った。

翌日、弁天堂の水面と美しい曲線を放つ屋根は、
汚れひとつない真っ白な雪を纏っていた。


写真/雪を纏う、大隆寺の弁天堂