心を濯ぐ旅。

市民時報旅行は地の利を生かして、
スローフードやスローライフ、エコーライフを
実生活で実践している地元の個人の人を紹介し、
その方の暮らしにふれることができるオプショナルツアーを開拓した。
それが「飛騨の通」なのだ。
従来の観光資源や観光施設に頼らないまったく新しいツアーで
地方色を強く感じていただける人との出会いを大切にしている。

今回紹介するのは
「歴史ある伽藍で座禅を組み、心を濯ぐ旅」と称して、
東山の寺町の雲龍寺を訪ね、座禅を組んだあとに
奥方からよもやま話を伺うというものだ。

お寺というと住職が顔になるが
今の様に、女性が禅寺で暮らせる様になったのは近年のこと。
ひと昔前までは女人禁制で、おそうじや炊事などは総て、
小僧さん達が行っていたという。
いまでは奥方が縁の下の力持ちになり、
お寺を支えている。

永平寺を開いた道元禅師の言葉に
「杓低一残水、汲流千億人
(しゃくていのいちざんすい ながれをくむせんおくのひと)」と
いうのがある。
「柄杓の底に残ったわずか一滴の水でも川に戻せば、
多くの人間がその恩恵をもらえる」という意味なのだが、
常に半杓の水を子孫のために残したという話の真意は
「勿体ない」という精神そのものである。

奥方は在家から嫁いたので、寺の暮らしは、
住職の父から色々と教えてもらい、
その一つが「もったいない」という、ものを無駄にしない暮らしだった。
たとえば父は毎朝、牛乳を温めて飲むのだが、
レンジが普及していない頃の事、たいていの人は鍋に牛乳を入れガスで沸かす。
しかし、父は深夜温水器のお湯を使って牛乳瓶ごと温めていた。
湯せんはガスと比べて時間がかかりますが無駄はない。
そして貯まったお湯は色々な事に使ったという。

紙に書かれた文字から、思いを感じるのは難しいが、
奥方の体験からうかがう「もったいない」は、
参加者の心のなかにストンと落ちた。