飛騨の細道 18 - 「そのままがいい。」


■そのままがいい。

「素朴」、「素材」、「素顔」、「素質」、「素行」。
素からはじまる言葉を思いつくまま並べてみた。
辞書を引くまでもなく、「素」とはそのままが一番美しいとか、
手をくわえないというようなイメージがあるが、
人間の知恵とか手先ではどうすることもできない
大きなもの(宇宙といってもいい)の調和を、
壊さないように生きようということだ。

高山には町屋が軒を連ねているが、
その様子は飛騨という環境とうまく馴染み、とても美しい。
ところが家屋に使われている素材は木と土と竹と紙だから、
地震や大火がきたらひとたまりもない。
かつては高山でも大火に見舞われ、町家やしもた屋はいくどとなく焼失した。
それでも大工や家主は木と土と竹と紙にこだわり続けてきた。

木は風雨に晒されることで木目が浮き出し、美しい模様を見せ、
青い竹は時が過ぎると茶色に変色し、寂た美しさに姿を変える。
貼り替えた汚れのない真っ白な障子は、凛とした静寂さを醸し出し、
家人に踏みつけられた土間は、コンクリートのように硬くなり、
凸凹しながら独特の風合いを見せる。

「そのままが一番」というのは、変らないことではなく、
自然にゆだねながら変っていくことを楽しみ、
生活の喜びとすることなのだ。