飛騨の細道 105-「町の灯り」


■町の灯り

車で平湯方面から高山市内に入ると、
文字どおり「長坂」という長い下り坂を走る。
ここらあたりは宗猷寺町とよばれ、寺院が数多くあり、
道が大きく右にカーブするあたりに、左手には大きな伽藍がみえる。

車のないむかしは、徒歩で街道を歩いたと思われるが、
長坂を下るにつれ、高山の町が見えるここら辺りで足を止め、
長旅に疲れた旅人が安堵するようすが目に浮かぶ。

ひとむかし前は、テレビのアンテナはなく、
冬の夕方には、折り重なるように続くしもたやの屋根が漆黒の闇を作り、
そのなかに家の灯りが小さくぽっぽっと浮かんでいたのだろう。

今では様子が変わり、屋根の形もマチマチで、いたるところに
アンテナが生えた。そして灯りも蛍光灯にかわった。
ところが6年前に高山市立図書館「煥章館」ができると
これといって代わりばえしない町の闇は一変した。

晴れた日の夕暮れは、うすい桃色と深い青が西の空を染めはじめるが、
煥章館の展望台のモダンなシルエットと、
そこからもれるオレンジ色の灯りが美しく、しばし足をとめる。

ささいな景色ではあるが、
かつて旅人が長坂を下りながら癒されたように、
灯りはいつの世も人をやさしい気持ちにさせるものだ。


写真/煥章館は明治初年に、フランス風にならって作られた学校で、バルコニー付きの作りといい、モニュメントの展望台といい、かなりモダンだった。平成16年に新設された図書館は、これをモデルにしている。