飛騨の細道 63-「神宿る山」


■神宿る山
 
むかしから人が簡単に立ち入れない山や森は、
神々の世界だった。
樹木におおわれたうすくらい山奥には
神々がましますのである。

大晦日から元旦にかけ多くの参拝客が初もうでにでかけるが、
人里近くにある神社とちがい
「荒神さま」は雪ふかい山のなかにある。

のぼり旗が連なるつづら折りの山道。
そこを息を切らしながら上ると「荒神さま」が見える。
山の傾斜地に建てた社殿は、
町の神社を見なれたものにはあまりにも小さく、
10人も入れば息苦しくなるほどだ。

みれば直径が2mにもなる杉の木が
社殿をとりまくように何本もそそりたってる。
そのなかの1本は社殿の屋根の端をかすめ、
さらに1本は社殿のなかを串刺しのように貫いているのだ。

神話では、いざなぎの尊といざなみの尊が
はじめて天の高天原から地におりてきたとき、
「国中の柱」というものを立てたというが、
その柱を中心に一種の儀式を行なって子を生んだという。

この柱はまだ何もない地上世界に、
新たな命を導くための目印で、
いわば神を受信するためのアンテナで、
その出会いの場は特別でなければならないのだ。

※「荒神さま」は霊験あらたかな神様で、商売繁盛を祈願する
事業家のあいだでは有名である。